2023.12.01
農業の世界では酪農家の数が減少し、その背後にある困難な状況が浮き彫りになっています。
そのような中、富澤牧場は、伝統的な酪農業の価値を見直し、酪農の再評価に挑戦しています。
酪農家の課題を直視し、地域社会への貢献と持続可能な農業への考え方や、牛との触れ合いを通じて生命の尊さを伝える体験活動など、牧場が行う様々な取り組みについても語っていただきました。
また、富澤氏が酪農家としての道を歩んできた経緯や、初めて酪農家になる決意をしたきっかけなどから、彼が牧場を運営する上での魅力も教えていただく機会となりました。
富澤牧場が酪農の現状を打破し、地域社会に新しい風をもたらすビジョンに迫っていきます。
(富澤裕敏:富 インタビュア:イ)
富:60年くらい前に比べると95%くらいの酪農家がなくなっているって知ってる?
でも、今残っている人たちは5%の人だけど、頭数はあまり変わっていないんだよ。
イ:じゃあ大規模な酪農家が残っているということでしょうか。
富:そう、大規模化には成功してきているんだろうけど、人口はどんどん減ってて、その辺で需給のバランスが取れなくなって、おかしくなってきたのが、ここ2・3年。
もちろん、牛乳を一滴残らず売り切れるようなシステムとかって素晴らしいとは思うけど、自分でヨーグルトとかチーズとかを作りたいなと思ってはいるんだけど、忙しくて取り掛かれなかったんだよね。
イ:確かに、本業の仕事があるので大変そうですね。
富:この仕事をやった後に、夜に台所で作ってみたこともあったんだけど。
例えばチーズを作るのに6時間とかかかっちゃうんだよ。温度を一定に保って、固めないようにしながらね。
そんな手間をかけて、出来てきたのは少量で。これは自分では難しいなとなったんだよね。
でも、加工品の話は妻とも話してて、ここ何年かでチャレンジしないと、この先やらないんじゃないかと思って焦っているところだよ。
どうしても、牛乳だけだと、物流の途中で他の農場と一緒になってしまうから、自分の牧場の名前は名乗れない。その辺もあって、加工品へのチャレンジは今後もしたいところなんだ。
イ:富澤牧場では牛と触れ合うことができる体験にも力を入れてますよね?
富:牛って、温かいからさ。触るだけでも命の温かさを知ることができる貴重な機会になる。
地元の小学校の子供達にも来てもらったこともあるし、一般の人も体験に参加しているよ。
イ:富澤牧場でやっている体験ってどんな内容なのでしょうか。
富:乳搾りや餌をやってみたり、子牛に哺乳瓶でミルクをあげたりとかかな。
特に、子牛は生まれて20分くらいで自分で立って歩いたりもするのだけど、そんな生命力の強さを実感してもらいたい。哺乳瓶をすごい力でぐいぐい引っ張るからね。それを感じてもらいたい。
僕らにとっては普通のことだけど、それを全然知らない人がやると、すごい喜んでくれる。
イ:すごい、貴重なことですよね。僕も東吾妻町に戻ってきた時に、知り合いの牧場に子供を連れていきました。
富:牛の大きさとかも、近くで見て、少し触ってみるだけでも良い体験だけど、最近はそんな体験が出来る場所も少ないんだよね。
命を感じて、牛乳は当たり前にパッと買って簡単に飲めるものじゃないっていうのを、遠回しだけど伝えていくことができればなと思う。
群馬県内で牛を飼っている牧場は少なくなっているし、牛を飼ってても体験をやっているところは少ないしね。
イ:富澤牧場さんのホームページも拝見しましたが、体験に力が入っているのも伝わってきて素敵ですよね。
富:それも、いつからか繋がっていないといけないなと思い始めて。
牧場の中の仕事だけでも生計は成り立つかもしれないけど、それは裏を返すとすごい危険で、酪農家自体が独りよがりになってしまうし、これからは丁寧に説明しないと買ってもらえなくなるのでは?と思うようになったのがきっかけ。
牛を見に行けて、触りたければ触れる。そういう体制というか牧場にしたいなと思っているよ。
富:ここが実家で、ここで育ったんだけど。酪農は嫌いだったんだよね。
親が働いている姿を見てて、毎日休みもなく牛に追いかけられるのは僕は嫌だなって。
だから、中学や高校でも、酪農はやりたくないと思って進路を決めていった。
今思うと、そう見えてたのは酪農のマイナスな部分を感じてたからだと思うんだけど、そのイメージを周りの人も持っているように感じてしまって余計にやりたくなかったかな。
でも、大学のために東京に住むことになったんだけど、そこで出来た友達と話していくうちに、この場所の良さがやっと分かるようになったんだよね。
その時に、場所だけでなく仕事自体もやりようによっては、どうにでもできる。と可能性が見えたかな。
イ:じゃあ、大学の卒業のあとはすぐに戻ってきたんですか。
富:そうだね。「まずは帰ろう。」と思って大学を卒業してすぐに戻ってきたんだ。
就職する選択肢もあったけど、時間を無駄にするんじゃなく、まずはやってみたいと思っていたんだ。
当時は、牛舎もまだ古くて小さかったから、両親だけでやっていけるサイズで、戻ってきても自分のやる仕事もあまりなかったんだよね。
アルバイトをしながら、家の手伝いをしていた時期もあったんだけど、「農協の仕事を手伝いに来ないか?」と、あがつま農協の畜産部の部長さんに声をかけていただいて、お世話になることになったんだ。
1年半くらいの期間だったけど、畜産部に入ることで、牛のことについて改めて勉強したり、どう出荷されているか、酪農って仕事の仕組みとか、地域の酪農家とも繋がれたり、良い経験になった期間だったよ。
農協に通っている間に新しい牛舎を建てることになったので、畜産部にお世話になった後は両親と一緒に本格的に牧場の仕事をするようになって、本格的にスタートすることになったんだ。
スタートするための資金を親子2人の名前で借りたり、書類を作って面談もして、何とかお金を用意したんだ。その後は、牛舎も建てたし、牛も入れたから、あとはやるだけだと思ってチャレンジしてきたよ。
自分も思っていた悪いイメージの払拭や、どういう環境でどのように牛乳ができているかが全くわからない人のために体験事業を新たに始めたり、SNSでも発信するようになったよ。
富:実は、自分の町のことを考えるようになったのって最近なんだよね。
ここ、坂上の萩生地区って、行動範囲というか、遊びにいくのは、高崎方面なんだよね。
イ:確かに、萩生は高崎へのアクセスが良いですもんね。
富:でも原町に家を建てて住むようになって、やっと原町の周りに行くようになってから、町内の人とも関わりが深くなったかな。
それに、段々と歳を重ねるに連れて、地元に何が出来るかって余計に考えるようになって。
20代や30代の頃って、がむしゃらに自分の仕事をなんとかしようと思ってたけど、その意識が変わってきた気がする。地域のためにとか、みんなでやった方が楽しいなって思うようになったんだよね。
イ:それがあっての体験事業だったりもするんですね。富澤牧場のような一般の方も歓迎している牧場って少ない気がしますが、良くあるものなのでしょうか。
富:吾妻郡だけでなく群馬県内でもなかなかないんじゃないかな。実際に、体験事業に力を入れていると「富澤牧場は変わったことをやっているね」と、少し変な目で見られたりもするし。
イ:でも、富澤さんが牧場をやっている意味とか、大事にしていることとかを考えたら、必然的に体験に辿りつきそうですよね。
富:そこまでやって、価値が伝わるというか。ただ、牛乳を搾って売るんじゃないと言うか。
それに、繋がることも大事にしていて。
今度、参加する都内のイベントでチャリティーチケットを用意してて、1万円で酪農家と繋がれるチケットを買ってもらった人がいたら、都内の家族が体験出来ないような、牛に直に触れたり、牛乳を搾るところを見たりとかを、いつでも来てもらっても良い特典があるんだ。
また、それだけではなくて、代金の何割かをふるさと納税みたいに、郡内の「こども食堂」に牛乳を寄付するという取り組みもしていて、買ってくれた人が地域の支援にも繋がる形にもしているんだよね。
イ:社会貢献に繋がる意味が、その金額に入っていると思うと違う見え方がします。
富:地方の牧場と繋がることで子供の経験になったり、繋がった牧場のある地域への貢献が出来たり。そんな試みをしてみようって。
イ:すばらしいです。一見すると、行政がやるようなことですよね。
富:地域と紐付けるって意味では、そうなのかもね。でも、そういう事例さえできれば、違ってくるからね。
牛乳を飲みたくても飲めない人がいるかもしれないから、そういう人のところにも届けば意味があることだなって。
そういうアイデアがあるような活動にも挑戦していきたい。なんか、ワクワクするようなことをしていきたいなって。
イ:子供の頃は牧場が嫌だって言ってたじゃないですか。実際に酪農業に入って働き始めて、やっぱりここは良いなと思った部分はどこでしょうか。
富:昔は、毎日毎時間に仕事があって大変だなって思ってたけど、そんなことはないんだなって思ったかな。
スタッフとして働いてくれる人が出てきて、仕事を代わってもらうことが出来るようになって、平日とかでも外に出れるようになって。そういう面では、逆に自由なんだなって思うようになったかな。
後は、何より牛に関して。
人間も一緒で、乳牛もお産をしないと牛乳は出ないんだけど。
そのお産の瞬間が一番の喜びでもあるし、モチベーションにもなるし。
何回経験しても、やっぱりいいなって。生き物が生まれる瞬間というか、感動というか。
例えば、冬に生まれた時は、周りが寒いから、湯気がすごい立っている中で、親牛が子牛を舐めてて、その姿が神秘的だなって。
イ:想像するだけで感動的で魅力的だし、酪農家の特権だなって思います。
富:大変なことも多いけど、逆に考えられるようになったかな。仕事が毎日あるっていうことが、考え方によっては良いことだよね。
イ:生活の一部ってことですか。
富:それもあるけど、やることが尽きないというか。
例えば、畜産って冬にも仕事があるから、周りの農家の人にも来てもらえば、地域の雇用を生み出すこともできるのも酪農家の強みだしね。
イ:東吾妻町の好きなところってどこですか。
富:平和なことかな。のんびりさを感じられるところとか、都心部のような雑多な喧騒がないというか。町の音自体も穏やかで平和を感じるところが好き。
時間とかも、切り詰められて息苦しい雰囲気がないところとか。信号とかが少ないしね。
人もマイペースで良いと思う。悪く言えば我儘かもしれないけれど。
でも、バチバチお互いの意見をぶつけているわけでもなく、諦められる余白があるというか。
「じゃあ、いいや」といった感じで、余裕を感じられるところが平和と感じるところなのかもね。
イ:町へどういう形で貢献したいとかはありますか。
富:例えば、小学生の受け入れをした時に思ったのは仕事を作りたかったのが結構あって。
イ:仕事っていうのは牧場ってことですか。
富:酪農だけでなく。農業全般でもあるかな。
イ:憧れを持って欲しいということでしょうか。
富:憧れもそうだし、働きたいと思える場所かな。働けるところもそうだけど、楽しそうな場所がないから町から出て行かざるを得ないから。
でも、この地域で言えば、農業でそんな場所を作れるかなって思う。それがもしできれば、貢献になるんじゃないかって。
まだまだ夢みたいな話かもしれないけどね。
富澤牧場
<住所>群馬県吾妻郡東吾妻町大字萩生2887-334
<営業時間> 10:00-16:00
<問い合わせ> 0279-70-7962
<ホームページ>https://tomizawa-farm.jp/
<X(旧Twitter)>https://twitter.com/Tomihiro1221